大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

徳島地方裁判所 平成12年(行ク)1号 決定

基本事件 平成12年(行ウ)第5号 入学願書不受理処分取消請求事件

主文

一  被申立人らが申立人に対して平成一二年二月一七日付けでなした平成一二年度の総合選抜校への入学願書を受理しないとした処分は、徳島地方裁判所平成一二年(行ウ)第五号入学願書不受理処分取消請求事件の判決確定に至るまで、その効力を停止する。

二  申立費用は被申立人らの負担とする。

理由

一  事案の概要等

1  本件は、被申立人らが、既に公立の高等学校を卒業していることを理由に、申立人が提出した高等学校の入学願書を受理しなかったことから、申立人が右不受理処分の取り消しを求める訴えを提起したのであるが、入学試験の実施日が迫っており、本案判決を待っていては受検が不可能になって、回復しがたい損害を被ることになるとして、右不受理処分の執行停止を求めた事案である。

2  前提となる事実等

(一)  申立人は、昭和五九年三月に中学校を卒業し、同年四月、徳島県立の高等学校(普通科)に入学し、昭和六二年三月、同校を卒業している。

(二)  申立人は、平成一二年二月一六日、被申立人徳島市立高等学校校長Aに対し、宛先を被申立人らとする、総合選抜校への入学願書を提出した。

(三)  しかし、同月一七日、被申立人総合選抜審査委員会は、「一般的に、既に『公立高校』を卒業している同一人物が、公費を用いて二度『公立高校』に在学することは、一人の新卒者あるいは高校に在学経験のない過年度生の教育を受ける権利を奪う可能性が大きい。公立の高等学校は、公の教育を担う立場にあり、徳島県の公立高校においては、教育の機会均等の立場を支持し、願書を受理できない。本件において、申立人の高校受検の理由を考慮しても、上記の立場を変更する理由が見当たらず、願書は受理できない。」として、右入学願書を不受理とした(以下、「本件不受理処分」という。)

(四)  平成一二年度徳島県公立高等学校生徒募集選抜要項(以下、「本件要項」という。)は、出願資格について、「出願資格者は、中学校卒業者及び徳島県立高等学校規則二三条三項の規定により、高等学校に入学できる者とする。」と規定している。

(五)  徳島県立高等学校規則(以下、「本件規則」という。)は、二三条三項において、次のように規定している。

「高等学校に入学することができる者は、中学校若しくはこれに準ずる学校を卒業した者又は高等学校入学に関しこれと同等以上の学力があると認められる次の各号の一に該当する者で、入学しようとする学年の課程の履修能力を有するものとする。

一  外国において、学校教育における九年の課程を修了した者

二  文部大臣の指定した者

三  その他高等学校において、中学校を卒業した者と同等以上の学力があると認めた者」

3 争点

(一)  申立の利益の有無

(二)  「本案について理由がないとみえるとき」(行政事件訴訟法二五条三項)にあたるか。

4 当事者の主張

申立の理由については、申立人作成の平成一二年二月二一日付け執行停止申立書、同年三月二日付け及び同月六日付け主張書面、これに対する被申立人の反論については、被申立人作成の同月二九日付け意見書、同年三月六日付け主張書面記載のとおりであるから、それぞれ引用する。

二  当裁判所の判断

1  申立人は、平成一二年二月一四日、被申立人らに対し、同年三月九日に実施される、平成一二年度徳島県公立高等学校生徒募集選抜の学力検査等を受検すべく、入学願書を提出したところ、同年二月一七日、被申立人総合選抜審査委員会はこれを受理しなかったのであるが、入学願書が受理されなければ、申立人は右学力検査等を受けることはできなくなるのであるから、当該不受理処分は申立人の権利関係を具体的に決定、形成するものと認められる。

2  本件不受理処分の効力が停止されることによって、行政事件訴訟法三三条四項、一項により、申立人は学力検査等を受検できる地位を有することになると解される。

この点、被申立人らは、同法三三条四項は、一項は準用するものの、二項については準用していないのであるから、本件不受理処分の効力が停止されたとしても、被申立人らが入学願書を受理するか否かは自由裁量であり、受理することが義務づけられるものではない旨主張する。

しかしながら、同条二項は行政庁に裁量的判断が認められる場合を前提としているものと解されるところ、被申立人らは入学願書を受理するに際して、出願者が本件要項に定める出願資格を有するか否かを判断するについて裁量の余地がないわけではないが、申立人は中学校卒業者であり、本件要項に定める出願資格を有するのは明らかであって、他に入学願書を受理するか否かについて被申立人らの裁量を認めた規定もないことからすると、記載上の不備等の形式的要件を欠くものでないかぎり、被申立人らはこれを受理すべき地位にあるといえ、本件において、これを受理するか否かについて裁量の余地はないのである。そうすると、不受理処分の効力が停止されることによって、同法三三条四項、一項に定める拘束力により、被申立人らは申立人が提出した入学願書を受理することが求められることになる。

被申立人らは、選抜行為と入学の許否とは一連の手続であるから、入学願書を受理するか否かは自由裁量である旨主張するのであるが、確かに、入学の許否については裁量の余地があるとしても、入学の許否と入学願書の受理とは法的には区別されるべきものであるから、右主張は採用しがたい。

そして、受理後、受検を被申立人らの許否にかからしめる規定もない。被申立人らは、本件要項に「各高等学校に出願した者で高等専門学校に合格した者は、高等学校の受検資格を失うものとする。」旨の規定を指摘するが、これをもって受検させるか否かの裁量を認めた規定と解するには無理がある。

よって、申立人は、申立の利益を有するというべきである。

3  申立人は公立高校を卒業しているものの、出願資格を定めた本件要項をみても、一度高等学校を卒業した者の出願資格を制限する旨の規定はない。

被申立人らは、本件要項の「この要項に定めるもののほか、入学者選抜に必要な事項及び特別の事態が生じた場合の措置は徳島県教育委員会教育長が定める。」旨の規定に基づき、出願資格に「公立学校を卒業していない者」という資格要件を付加し、申立人はこれに抵触する旨主張する。

しかしながら、出願資格は国民の教育を受ける権利を実現するための重要な前提要件である上、本件規則二四条は「生徒の募集、出願及び選抜方法については、委員会が定める。」とし、本件要項はこれに基づいて制定されたと解されるところ、被申立人らの主張によれば、本件要項の右規定に基づき出願資格を制限することにより、本件規則が定めている入学資格をより制限しうることになり、しかも、そのような権限を教育長の裁量に委ねることになることからすると、被申立人らが指摘する本件要項の右規定をもって、教育長に出願資格を新たに制限しうる権限をも付与する規定と解するのは相当ではない。

そうであるとすると、右資格要件の付加は、明文の規定はないが当然の前提事項を明らかにした趣旨と解するほかないところ、入学資格を定めた本件規則や、出願資格を定めた本件要項が、一度公立高校を卒業した者が再度入学するという事態を本来的には想定していないといいうるとしても、なお出願資格や入学資格を一律に認めないことを当然の前提としているとまで解することには躊躇せざるを得ないところであり、右のような解釈を直ちに採用することもできない。

4  被申立人らは、申立人の入学願書を受理しない理由として、公教育であることや教育の機会均等を主張し、このような理由にも合理性がないわけではないが、前述のように、被申立人らは本件要項に定める出願資格が認められるかぎり、これを受理すべき地位にあるのであって、そして、被申立人らが意見書等で主張するような事情は、合否の判定、もしくは入学の許否(本件規則三三条四項参照)を判断する上において、考慮要素となりうる余地があることは格別として、本件不受理処分を正当化しうるものとまでは即断できない。

よって、本件が「本案について理由がないとみえるとき」に該当するともいえない。

三  結論

学力検査等の実施日を考慮すると、本案判決を待っていては、申立人は受検することができず、申立人に回復の困難な損害が生じるものと認められる。

よって、本件申立てには理由があるので、主文のとおり決定する(なお、不受理の通知は、被申立人総合選抜審査委員会の名で行われているが、本件要綱によれば、入学願書のあて先として、被申立人総合選抜審査委員会及び受検校場の高等学校長を記載することが求められていることからすると、被申立人徳島市立高等学校長も、本件申立ての相手方となるものと解される。)。

(裁判長裁判官 松本久 裁判官 大西嘉彦 裁判官 齊藤顕)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例